本書の序文には「神秘のヴェールに包まれたシュタイナー学校の教師たちの姿に迫ること」を目的として執筆されたと記されています。教育実践が記載された書籍は多数出版されていますが、それらを実践している教師の実像に迫る内容は、シュタイナー学校のホームページに掲載された教師へのインタビュー記事以外はなかなか見ることができません。
このような記事はとても興味深いものも多く、生の声を聞くことができる非常に貴重な存在です。本書では、大学で教育学の基礎理論に関する講義を担当されている筆者によるインタビューの内容が数多く掲載されています。しかも、その内容の解説・分析がかなりのボリュームで掲載されています。そのため、今までにはないとてもユニークで貴重な本になっています。
こちらは、シュタイナー学校の教師を目指している方はもちろんのこと、シュタイナー学校への子どもの入学を検討されている方もとても興味を持って読み進めることができます。
なぜなら、前者にとっては、現役教師の来歴となる22の物語や教員養成の過程の具体的なエピソードに触れることでき、さらに長年教師の卵を送り出してきた筆者の経験に基づく的確な付加情報があるからです。
後者にとっては、自分たちの子どもが長い間学ぶことになる学校の教育観を実体のある教師の生の声から聞くことができ、さらにその教師たちの学び続ける姿勢や態度についてもうかがい知ることができるからです。
もちろん、教師に求められることを実現するための困難さや現在に至るまでの失敗の例も述べられており、全てがうまく順調に事は進むわけではありません。
しかしながら、少なくとも本書により、シュタイナー学校の教師が神秘のヴェールから姿を現し、より解像度の高い状態でその姿に迫ることができるようになった事は、とても大きな成功であるといえるのではないでしょうか。
内容紹介
著:井藤 元
発行年月:2023年11月30日
刊:ナカニシヤ出版、A5、248ページ、2,750円(税込)
第1章 教師たちの来歴-22 の物語
- 4つの類型
- 学生時代を終えて、すぐに教員養成課程に進んだ教師たち
- 社会人経験のある教師たち
- 公立学校での教員経験のある教師たち
- 社会人経験あるいは公立学校での教員経験があり、かつ保護者としてシュタイナー学 校に関わった経験がある教師たち
- 22 の物語から見えてくること
第2章 教師たちの修行時代―教員養成課程での経験
- 徒弟的な学び
- 威光模倣の対象との出会い
- 魂の在り方の変容
- シュタイナー思想を「高次の本能」として落とし込む
- 教師のタイプの複数性
- 目に見えない存在にアクセスする
- 偶然の出会いに身を委ねる
- メンター制度について
- 伝承とオリジナリティ
- 終わりなき探究
第3章 シュタイナー学校の教師に求められること
- シュタイナー思想を信じる必要があるか――開かれた態度を保つ
- シュタイナーの教育理論は実践を読み解くためのヒント
- 自己教育の重要性――変わり続けてゆくこと
- 子どもに対して畏敬の念を持つ
- 長期的展望のもとで子どもの姿を捉える――教師たちの射程
- 子どもの魂を満足させる授業――授業の生命線を見つける
- 授業の即興性をめぐって――教職的なスキルの必要性
- 同僚性に支えられた教師たちの成長
- 教師自身も自由に
- 新卒でシュタイナー学校の教師はつとまるのか
第4章 醍醐味と困難
- 教師の仕事の三つの特徴
- 再帰性について
- 不確実性について
- エポック授業のメリット
- 不確実性を呼び込む
- 無境界性について
- 教員会議の無境界性
- 授業準備の無境界性
- 長期休暇の過ごし方
- 学年末の通信簿
付録 国内で受講できるシュタイナー学校教員養成講座
- 日本シュタイナー学校協会 連携型教員養成講座
- 日本各地の教員養成講座
- 東京賢治シュタイナー学校教員養成講座
- 横浜シュタイナー学園で学ぶ教員養成講座
- 京田辺シュタイナー学校教員養成講座
- シュタイナー学園で学ぶ教員養成講座
- どの講座が自分に合うのか
- 教員養成講座受講者の体験談